古いものを残し、新しいものをつくる。
私たちは古いものが跡形もなくなることを嫌います。
情があるからです。
古いものを全部なくせという話ではありませんが、
なくしたほうがいい古いものもありますよね。
「うわっ。これまだ残ってんのかよ~。はやく食べればよかったのに」
冷蔵庫の野菜室には、昔買ったまま忘れられた、腐りかけの野菜たちが出てきます。奥のほうにしまわれた野菜たちは、とろとろとしていて、形状まで歪んでいます。お兄さんはかわいそうな野菜たちを片手でつまんで、外に出してあげました。
「今日は掃除だ掃除。お兄さん今日は一肌脱ぐよ」
「お、めずらしいねお兄さん。やっちゃって!!」
弟はのんきなやつです。まったく部屋を片付けようと思いません。だからもう30歳にもなって、小学校の古いテキストなんかが出てきます。床には中学校の卒業旅行に買った京都土産の刀が転がっており、部屋全体は東京のオフィス街のごとく物が積み重なっていました。お兄さんは悲しくなりました。
「弟よ。もう我々もいい年だから、いい加減古いものを捨てなくちゃ。いつ見るんだその小学校の古いテキスト」
「ほら、いつか勉強しようと思ったとき、小学校からはじめないと分からないこともあるんじゃないかなあと思って・・・」
「お前、小学校からやりなおしか。それもいいだろう。でも昔の小学校よりも、今の小学校のテキストを買ったほうが、情報も新しくないか?」
弟はたしかにとうなずいて、懐かしそうに小学校のテキストを眺めました。
「山田先生元気かなあ」
「それやめよう。思い返すのやめよう。それやってたら部屋片付けるのに一年かかる。年末になるぞ」
弟はしぶしぶとうなずいて部屋を片付けはじめました。ゴミ袋には小学校のテキストのほか当時のテストの回答用紙や、連絡簿などでいっぱいになりました。すると、箪笥に空きスペースが2つもできました。「ここに新しい何かを入れたらいいじゃないか」
「そうだねお兄さん。昨日買った新書110冊全部入りそうだよ!」
弟は無駄に買う癖があります。驚くほど買っておいて、驚くほど読みません。それゆえに無駄なものがどんどん部屋を埋め尽くしてしまいます。
「弟よ。その癖を直そう。この部屋が一度、お前の脳の中だと考えてみなさい。その110冊の情報を脳の中に全部敷き詰められると思うのか?思わないのか?」
「思いませんお兄さん。まったくこの1冊だって入りきる自信がありません」
「そうだろう?その京都の刀はいつまで脳の中にしまっておくんだ。ちゃんばらごっこは自分自身とやりなさい」
弟はしゅんとしょげてしまいました。「しかしそう思うとお兄さん。ぼくの部屋は無駄なものばかりですね・・・」
き、気がついたのか!!!
まさに新しい考えによって、新しい部屋が生まれる瞬間となったのでした。
私の部屋も、自分の心の中だと思った瞬間、見方が変わりました。
昔よりはだいぶよくなったんですよ。ね、お母さん。